KAGETOHIKARI
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張り詰める緊張感。工場では職人たちが、2人1組となって、左右から糸を引き合い、呼吸をゆっくりと合わせながらベースの紙へと貼っていきます。「しゃらしゃら」をはじめとした“不規則さの美”を持つ織物たちが生み出される背景には、確かな手加工の技がありました。京都と大阪を結ぶ交通の要衝として、また、織物の産地としても古くから栄えた京都府木津川市。そこでは昔から、畑を覆うための寒冷紗(かんれいしゃ)という生地が作られていました。発展していったのは、作物を風雨や虫から守りながらも、風と光を通す、意図的な粗さを生み出す技術。そしてそれは、明治時代になると、襖(ふすま)づくりにも活かされるようになりました。約100年前、その木津川市の地で創業した小嶋織物は、天然素材の麻や綿、木より生まれたレーヨン糸を使用して、織物ふすま紙と織物壁紙を製造・販売してきました。各工程が分業されることが多い中、小嶋織物は、織工程から加工、仕上がりまでを一貫生産。デザイン・開発・試作をすべて、自社工場で行うことを強みとして、時代のニーズに合わせた新たなデザインに挑戦し続けてきました。今回、隈氏が思い描く素材感を実現するために、百年間積み重ねてきた知識と技術のすべてを注力。隈氏のオーダーからインスピレーションを受け、職人たちが集結し、素材や太さ、形状などが異なる糸同士を撚り合わせていく糸デザインからはじまり、糸の染色、経糸の設計、そして、織機によりさまざまな緯糸と組み合わせて生地をつくり上げていきます。さらに、糸や生地をさまざまな色・質感の紙と重ね合わせていき、新たな表情を生み出すことに成功しました。高品質な風合い、安定した不規則さの美しさは、まさに職人たちの高い手加工の技術力とチームワークこそがなせる技なのです。M1 麻・レーヨンで織った生地を湿らせ収縮をかけた状態。ここから「もわもわ」へと仕上げていく。M2,3収縮をかけた生地を広げていく。M4全体の粗密のバランスを見ながら、シワ・歪みが密にならないように部分を伸ばしたり、集めたりして整えていく。M5生地を伸ばして、隅の部分を固定する。M6上から糊をつけた裏紙を被せる。M7全体に生地が貼り付くように上から撫でます。裏返すと「もわもわ」模様ができている。その後乾燥により定着をさせて完成となる。重ねる小嶋織物株式会社(京都府木津川市)S1 糸の張り具合、疎密のバランスを見ながら調節し、柄をレイアウトしていく。 S2-4 一方向を貼ったら、クロスさせるように、もう一方向も同じように置いて「しゃらしゃら」の柄をつくっていく。M2M3M4M5M6M7M1S1S4S3S24243

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