KAGETOHIKARI
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ないのです。だから、今回こそ、もともとの日本人が大切に育ててきたオノマトペを使う時じゃないかと思ったのです。元々、僕の事務所ではオノマトペを、デザインするための共通語のようにずっと使ってきました。だから、こうして製品名になったこともまた、画期的で嬉しいです。安田オノマトペは隈さんがおっしゃるように身体的感覚に通じるものなので、人によっての捉え方が異なってきます。だからこそ、今回は具体的な使用場面を私たちで決めつけないようにしたいと思いました。通常の製品のように、こういう施設や空間で使ってくださいと伝えるのではなく、オノマトペを使った製品名の言葉の響きと、実際に手に触れる素材を感じていただいて、使い手の皆さんにそれぞれに楽しみながら考えていただきたい。こちらの想定外の使われ方をしたとしても、それはとても良いことだと考えています。ものづくりの極致を多くの人に届けたい風間毎回、デザインしたものを出して、隈さんやスタッフの皆さんからご意見をいただくことを繰り返していきました。通常、私たちの商品開発は半年から1年ぐらいをかけることが多いのですが、今回は、はじまってから4年強、実際の開発には3年を費やしました。さらに製品を現実化させるために、全国の工場の作り手の皆さんに、さまざまな形で協力いただきました。非常に難易度の高い要求が無数にあったのですが、皆さんが隈さんの作品をつくるということに意欲を出し、とても協力してくださいました。隈サンプルが上がってくる度に、こちらの想像を超えたようなものが出てくることには、毎回本当にびっくりしていました。例えば、僕らが紙や布でイメージをつくって伝えると、それに対して風間大樹1983年生まれ、東京都出身。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業後、株式会社サンゲツに入社。2009年、マーケティング本部 クリエイティブ課にて壁紙の開発を担当。2014年、インテリア事業本部 床材事業部商品開発課にて繊維床開発を担当。4849次々ととてもおもしろい提案を出してくださいます。そういうコミュニケーションを重ねながら、本当に今までなかった「物質」が誕生したという感じを持っています。風間たとえば「しゃらしゃら」の壁装材を実際につくるときには、ある職人さんから束ねた糸を自分で伸ばして貼ってみると提案がありました。それによって計算外の表情が出てくる。「つぶつぶ」の壁装材は、手すきの紙の上に6回ほど刷毛で塗っています。もともと凹凸がある紙の上に塗っているので、インクのたまりによって複雑な表情を生み出すことに成功しました。カーペットタイルでは、一旦編んだものをほどいて、その糸を織ることによって凹凸感が違った表情を生み出すとか。さらに糸も、一本の糸の中にさまざまな色が出る染色方法をとることで、計算外の深みを出すことに成功しました。その製品もまさに、隈さん、サンゲツ、そして作り手の皆さんの三者で創り上げたコレクションだと言えると思います。隈サンゲツのような日本の大手インテリアメーカーが、このようなきめ細かいものづくりの極致のようなことをしていただけることが、本当に驚きでした。私にとっては、この数年間に経験させていただいたプロセス全体が、宝物のように感じています。それくらい、この「カゲトヒカリ」の製品たちは、日本のものづくりのすごさについても、世界に示していってくれることでしょう。今こうして、誕生した製品を見て、手に取ってみて、よくここまで複雑かつ美しいものができたなと思います。こんな複雑な表現を持つものは、特注でしかできないと、僕は信じ込んでいました。でも、この特別なものたちは、これからカタログに載って世界に出て行くわけですよね。今、とてもエキサイティングなことが、はじまろうとしているのだと思います。

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